1つのAIに全部任せると、コンテキストが溢れる。
認証機能の実装、テストの追加、ドキュメント更新を同時に頼んでいる状況を経験したことがある人はわかるはずだ。途中から指示が雑になり、後半の作業が中途半端になる。1人で抱えすぎた新入社員が、残業2日目に仕事の質を落とすのと同じメカニズムだ。
2026年2月4日、VS Code 1.109 がリリースされた。公式ブログのタイトルは "Your Home for Multi-Agent Development"(マルチエージェント開発の家)。1つのIDEから、複数のAIエージェントを並列で動かすための基盤が整ったという宣言だ。
Agent Sessions — タブ切り替え地獄からの解放
これまでのやり方はこうだった。Claude.ai を1タブで開き、GitHub Copilot Chat を別パネルで開き、結果をコピペしながら行き来する。そのたびにコンテキストを手動で渡す。どのAIに何を頼んだか、そのうち把握できなくなる。
VS Code 1.109 のリリースノートによると、新設された Agent Sessions ビューでは4種類のエージェントを一元管理できる。
- ローカルエージェント:VS Code 内蔵の GitHub Copilot エージェント
- バックグラウンドエージェント:PC のバックグラウンドで実行中のエージェント
- クラウドエージェント:GitHub サーバー等クラウド上で動くエージェント
- サードパーティエージェント:Claude、Codex など外部サービスのエージェント
Claude と Codex を同時に動かし、それぞれの進捗をリアルタイムで確認できる。タブの切り替えも、コピペも不要になった。
また、VS Code 1.109 は .claude/ フォルダ内の設定ファイル(instructions、agents、skills、hooks)を自動的に読み込む。Claude Code を普段使いしているなら、そこで書いたエージェント設定やカスタム指示がそのまま VS Code 上でも機能する。同じプロンプト、同じツール、同じアーキテクチャで動く。
サブエージェントという発想——机を増やす
なぜ1つのAIに全部やらせると品質が落ちるのか。原因はコンテキストウィンドウ、つまりAIが一度に参照できる「作業机の広さ」だ。
認証機能の実装・テスト追加・ドキュメント更新を同時に頼むと、机がすぐに書類で溢れる。後半に頼んだ作業は、前半の情報で机が占領されているせいで処理が粗くなる。
公式ブログによると、サブエージェントはそれぞれ専用のコンテキストウィンドウを持ち、親エージェントのトークン消費には影響しない。「机を増やす」ことで、コンテキスト溢れを構造的に回避する設計だ。
// ❌ 1つのエージェントに全部頼む(コンテキスト溢れのリスク)
「認証機能を実装して。テストも書いて。READMEも更新して。
Dockerfileも直して。CIも設定して...」
→ 後半の指示が不完全になる、コンテキスト溢れで作業が崩壊する
// ✅ サブエージェントで分業する
親エージェント(指揮者):タスクを分解して各担当に割り振る
├─ サブエージェントA(実装担当):認証機能の実装 ← 専用の作業机
├─ サブエージェントB(テスト担当):テストの追加 ← 別の作業机
└─ サブエージェントC(ドキュメント担当):README更新 ← さらに別の机
→ 各エージェントが独立して並列実行、コンテキスト溢れなし
Search Subagent という専用エージェントも追加された。コードベースを反復的に検索するための独立したエージェントループで、検索という重い処理を親エージェントのコンテキストから切り離して扱う。
Plan Agent — 着手前に確認する
VS Code 1.109 には Plan Agent という機能も追加された。実装に入る前にAIが計画を立て、人間に確認を求める仕組みだ。公式ブログによると、4つのフェーズで進む。
Alignment フェーズでは、AIが「Ask Questions」ツールを使って実装前に曖昧な点を人間に聞く。仕様が固まる前にコードを書き始め、あとで全部やり直すという失敗パターンを防ぐための設計だ。
GitHub Agent HQ — Issue に3つのAIを同時アサイン
VS Code 1.109 のリリースと同日、GitHub は Agent HQ を発表した。GitHub の Issue に @copilot、@claude、@codex をメンションするだけで、複数のエージェントを同時に起動できる機能だ。
<!-- ❌ 以前:1つのエージェントに全部頼む -->
@copilot このバグを修正して、テストも追加して、レビューもして
<!-- ✅ 複数のエージェントに役割分担させる -->
@claude セキュリティの観点でコードレビューをしてください
@codex テストケースを追加してください
@copilot バグを修正してDraft PRを作成してください
<!-- 3つが独立して動き、それぞれ Draft PR を作成する -->
Anthropic の Platform 責任者 Katelyn Lesse はAgent HQ の発表の中でこう述べた。「開発者がいる場所に Claude を届ける。Agent HQ で Claude はコードをコミットし、プルリクエストにコメントできる。チームがより速く、より自信を持ってリリースできるようになる。」
Agent Hooks — AIが何をしたか追跡する
エージェントが自律的に動く場面が増えると、「どこをどう変えたか把握できない」という問題が起きやすい。Agent Hooks は、エージェントの動作の前後にカスタムシェルコマンドを差し込める仕組みだ。公式ブログによると、PreToolUse、PostToolUse、SessionStart の3つのタイミングで介入できる。
// ❌ フックなし(エージェントが何をしたか把握できない)
// ファイルが書き換わっても、いつ何が変わったか記録がない
// ✅ PostToolUse フックでファイル書き込みを記録する
{
"hooks": {
"PostToolUse": [
{
"matcher": "Write",
"hooks": [
{
"type": "command",
"command": "echo \"[$(date)] ファイル書き込み: $TOOL_INPUT_PATH\" >> .agent-log.txt"
}
]
}
]
}
}
macOS と Linux では Terminal Sandboxing も追加された。エージェントが実行するターミナルコマンドのファイルシステムとネットワークアクセスを制限する機能で、エージェントが想定外の操作をするリスクを下げる。
セッションをまたいで情報を記憶・想起する Copilot Memory もプレビュー提供が始まった。「先週のあのバグ修正の方針で今回も進めて」という指示が、セッションをまたいで通じるようになる。
業界全体が同じ方向に動いている
VS Code だけが動いているわけではない。markaicode.com の比較記事によると、Cursor は2026年2月24日にクラウドエージェントを隔離VM上で実行する機能を公開し、ブラウザUIのテスト(Computer Use)や動画デモの生成にも対応した。さらに2026年3月には Agent Client Protocol(ACP)を公開し、IntelliJ IDEA や PyCharm でも Cursor エージェントが動作可能になった。
JetBrains IDE についても、同記事によると同年2月に GitHub Copilot のエージェントモードとスキルが追加されている。
方向性は一致している。「1つのAIを1つのIDEで使う」から「複数のAIを1か所で束ねる」へ。エディタは、エージェントの指揮台になりつつある。
料金の実態——追加費用なしで使えるか
2026年3月時点、GitHub Copilot の公式プランページによると、Claude や Codex を使うエージェント機能(Agent HQ含む)はプレミアムリクエストとして消費される。
パブリックプレビュー期間中、エージェントコーディングセッション1回につきプレミアムリクエストを1消費する。ただし使用するモデルによってコスト倍率が異なる。Claude Opus 4.6 は3倍、Sonnet 4.6 は1倍、GPT-4.1 は倍率なしで追加消費しない。
| プラン | 月額 | プレミアムリクエスト/月 | Claude 利用開始 |
|---|---|---|---|
| Free | $0 | 50 | — |
| Pro | $10 | 300 | 2026年2月26日〜 |
| Pro+ | $39 | 1,500 | 2026年2月4日〜 |
| Business | $19/ユーザー | 組織管理 | 2026年2月26日〜 |
| Enterprise | $39/ユーザー | 企業管理 | 2026年2月4日〜 |
上限を超えた場合は1リクエストあたり$0.04が追加課金される。Copilot Business・Pro ユーザーへの提供開始アナウンスは2026年2月26日付だ。
コスト面での比較: markaicode.comによると、10人チームの場合、VS Code + Copilot Business は月$190なのに対し、Cursor + BugBot は最大月$800になる。すでに GitHub Copilot を契約しているチームは、追加コストなしでマルチエージェント機能を試せる立場にある。
「まだ1つのAIに全部任せている」なら、今週から変えてみる価値はある
VS Code 1.109 が出るまで、マルチエージェントは特別な設定を組んだヘビーユーザーだけのものだった。今は Copilot の Pro プランがあれば、Agent Sessions ビューを開くだけで始められる。
まず試すなら Agent HQ が手軽だ。次に GitHub で Issue を作るとき、@claude と @codex を同時にアサインしてみる。それだけで「役割分担するAIチーム」の感覚が掴める。
VS Code 1.109 の公式ブログは、「フルMCPアプリサポートを持つ最初の主要AIコードエディタ」を名乗った。MCPサーバーをインストールするだけで、チャット内にインタラクティブなUIが表示され、外部ツールとの連携が広がる。
「万能社員1人に全部任せる」モデルの限界は、使い込むほど見えてくる。専門チームへの移行は、難しい設定からではなく「サブエージェントに検索を任せる」という小さな一歩から始まる。

