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バイブコーディングはもう古い? エージェンティック・エンジニアリングへ

バイブコーディングを発明したAndrej Karpathy本人が、もう新しい言葉を使い始めた。「エージェンティック・エンジニアリング」とは何か、バイブコーディングと何が違うのかを解説する。

公開: 2026年2月20日約12分

バイブコーディングを発明した男が、もうその言葉を使うのをやめた。

2026年2月5日、Andrej Karpathyは「バイブコーディング」誕生から1年を機に、新しい言葉を提唱した。その名も「エージェンティック・エンジニアリング(Agentic Engineering)」。ただの言葉の言い換えではない。開発の哲学そのものが変わったのだ。


バイブコーディングを「発明」した男の転換

Karpathyが「バイブコーディング(Vibe Coding)」という言葉を初めて使ったのは2025年2月2日のX(旧Twitter)への投稿だった。「AIに全てを委ねてバイブ(雰囲気)だけで乗り切る新しいコーディングスタイル」と説明したその投稿は、670万回以上視聴された。

それからちょうど1年後の2026年2月5日、Karpathyは投稿した。「LLMははるかに賢くなった。バイブコーディングは今となっては時代遅れだ」と。

彼が選んだ新しい言葉がこうだ。

「99%の時間において開発者はコードを直接書かず、エージェントを統制し、監視役として機能する。そこにアートとサイエンス、専門的知見が伴う。個人的には『エージェンティック・エンジニアリング』という言葉が気に入っている」— Andrej Karpathy(The New Stack

「エージェンティック(agentic)」とは「エージェント(自律的に動くAI)を使って動かす」という意味だ。「エンジニアリング」という言葉を意図的に残したのは、専門的な技術と判断が依然として必要だからだという。

Vibe coding is passé. Karpathy has a new name for the future of software.Improved LLMs have made last year's "vibe coding" old, replaced by "agentic engineering" for professional AI-assisted development.thenewstack.io

バイブコーディングの何が問題だったのか

バイブコーディングは入口として優れていた。プログラミング未経験者でも「動くもの」が手に入る。Karpathy自身も、LLMが今ほど賢くなかった時代には合っていたと認めている。

では、何が問題なのか。

AI生成コードの45%にセキュリティ欠陥がある

Veracodeが2025年に発表した調査(GenAI Code Security Report)によると、AIが生成したコードの45%に1つ以上のOWASP Top 10(代表的なセキュリティ脆弱性のリスト)に該当する欠陥が含まれている。

特に深刻なのがXSS(クロスサイトスクリプティング——悪意のあるスクリプトをページに埋め込む攻撃)で、AIが生成したコードの86%でこの欠陥が確認された。ログを記録するコードに至っては88%が、外部からの入力を適切に処理していなかったという。

さらに重要なのはこの数字が改善していないことだ。同レポートでは、モデルの規模が大きくなってもコードの安全性は向上しないと指摘している。つまり、「AIが賢くなれば自然に解決する」問題ではない。

Veracode October 2025 Update: GenAI Code Security Report |Application Security for the AI Era | Veracodeveracode.com

本番データベースが消えた

数字だけでは実感しにくいかもしれない。具体的な失敗事例を見よう。

自律AIエージェントを使っていたある開発者は、「クリーンアップが必要」と判断したエージェントによって本番データベースを削除された。Replitで起きた実際の事例だ。また、AIコーディングツールのWindsurfでは、プロンプトインジェクション(AIへの悪意ある命令の注入)によって長期記憶に不正な命令が書き込まれ、数ヶ月にわたるデータ窃取が続いたケースも報告されている(Vidoc Security Lab)。

バイブコーディングの本質的な問題は、「コードを確認しない」ことにある。動いているから良し。テストは書かない。AIが「完了しました」と言ったら信じる。この姿勢が、上記の事故を生む土壌になる。


エージェンティック・エンジニアリングとは何か

Googleのエンジニアリングディレクター・Addy Osmaniは、エージェンティック・エンジニアリングを次のように整理している。

「AIが自律的なマルチステップワークフローを処理する、一方で人間がアーキテクチャ・品質・正確さに責任を持つソフトウェア開発アプローチ」(addyosmani.com

バイブコーディングとの最大の違いは、検証(テスト)を必ずやることだ。

PEVループ:三段階のサイクル

エージェンティック・エンジニアリングの核となる考え方が「PEVループ」だ(Addy Osmaniより)。

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Plan(設計): コードを書き始める前に、設計書や要件定義書を作る。「何を作るか」「何を作らないか」「どんな制約があるか」を明確にする。バイブコーディングが飛ばすのがここだ。

Execute(実行): AIエージェントに明確なタスクを渡す。あいまいな指示ではなく、範囲が絞られた具体的な要件を与える。

Verify(検証): AIが「完了」と言っても、そのまま信じない。テストを走らせ、コードレビューをする。テストが通るまでエージェントに修正させる。

このループを回すのが「現場監督」の仕事だ。設計図を書いて、職人(AI)に指示を出し、完成した箇所を検査して承認する。職人の作業そのものはAIに任せていい。でも検査をサボったら、欠陥住宅ができあがる。

Agentic EngineeringAgentic Engineering is a disciplined approach to AI-assisted software development that emphasizes human oversight and engineering rigor, distinguishing it fr...addyosmani.com

バイブコーディングとの具体的な違い

言葉で説明するより、実際のプロンプトの違いを見たほうが分かりやすい。

コード例1:AIへの指示の質

ユーザー認証機能を作るとき、バイブコーダーとエージェンティック・エンジニアではこれだけ違う。

❌ バイブコーディング(雰囲気任せ)

ユーザー認証機能を作って
✅ エージェンティック・エンジニアリング(設計から始める)

## 要件定義
- JWTベースの認証(アクセストークン15分、リフレッシュトークン7日)
- パスワードはbcryptでハッシュ化(ソルトラウンド12)
- レート制限:5回失敗でアカウントロック(30分)

## 制約
- 既存のUserエンティティのスキーマを変更しない
- 環境変数はすべて.env.localで管理
- テストは必ず書く(正常系・異常系・境界値)

## 完了条件
- ユニットテストが全て通ること
- 不正なトークンで401が返ること
- 5回連続失敗でロックがかかること

「作って」の一言でも動くものはできる。でもレート制限がなければ総当たり攻撃が通り、有効期限の設定がなければトークンが永遠に有効になる。指示の質が、コードの品質を決める。

コード例2:テストに対する姿勢

AIが「完成しました」と返してきたとき、どうするか。

❌ バイブコーディング(確認なし)

AI: 認証機能を実装しました。
開発者: ありがとう。次はダッシュボードを作って。
✅ エージェンティック・エンジニアリング(検証してから先へ進む)

# テストを走らせる
bun test src/features/auth/

# 型チェック
bun run typecheck

# AI: ✅ 全テスト通過(17件)
# → 承認。次のタスクへ

テストが通るまでエージェントに修正させる。この一手間が、本番環境での障害を防ぐ。


2026年、プロの現場ではどうなっているか

「理論はわかった。でも本当に現場で使われているのか?」という疑問はもっともだ。

Anthropicが2026年1月に発表した「2026 Agentic Coding Trends Report」によると、開発者はすでに仕事の約60%でAIを活用している。一方で、AIに「完全委任」できているのは仕事の0〜20%に過ぎない。

また関連するAnthropicの「2026 State of AI Agents Report」では、57%の組織がすでにマルチステップのエージェントワークフローを導入済みだという。「AIに丸投げ」ではなく「AIを組み込んだプロセス設計」が、プロの標準になりつつある。

AIエージェント市場は2025年の78.4億ドルから2030年には526.2億ドルに成長すると予測されている(年平均成長率46.3%)。「流行で終わる技術」ではなく、産業として定着するフェーズに入っている。

2026 Agentic Coding Trends ReportHow coding agents are transforming software development - and what it means for engineering teams in 2026. Insights on multi-agent systems, human-AI collaboration, and scaling agentic coding across organizations. Includes case studies from Rakuten, TELUS, Zapier, and more.resources.anthropic.com

どうすれば「エージェンティック」になれるか

バイブコーダーからエージェンティック・エンジニアへの移行は、ツールの変更ではなく習慣の変更だ。3つのことを変えるだけでいい。

1. コードを書く前に「設計書」を書く

AIに指示を出す前に、テキストで要件を整理する習慣をつける。箇条書きでいい。「何を作るか」「何を作らないか」「どう動けば完了か」の3点を書くだけで、AIへの指示の精度が劇的に上がる。

これは現場監督が職人に仕事を頼む前に、図面を確認するのと同じだ。口頭で「いい感じに」と言う現場監督がいたら、できあがりに文句は言えない。

2. AIの「完了」を鵜呑みにしない

AIが「実装しました」と言っても、それはAIの自己評価に過ぎない。実際に動かして確認する。テストコードがあればそれを走らせる。なければ、手動でも動作確認する。

「AIが言ったから大丈夫」という思考が、本番データベース削除の事故につながる。

3. テストを「面倒なもの」ではなく「エージェントへの指示書」として書く

テストの本質は「こう動けば正しい」という定義だ。テストがあれば、AIエージェントは「テストが通るまで修正する」という自律的なループを回せる。テストがなければ、AIは何が正しいかわからず、あなたが判断するしかない。

テストはAIを信頼するための道具だ。テストを書くほど、AIに委任できる範囲が広がる。


バイブコーディングは間違っていない。でも入り口に過ぎない

Karpathyがバイブコーディングを否定したわけではない。彼は「LLMがまだ未成熟だった時代には適切だった」と言った。入り口として機能した言葉だ。

でも今は違う。AIエージェントははるかに賢くなり、複雑なタスクを自律的に実行できる。だからこそ、人間が担う役割も変わった。

実装者からオーケストレーター(指揮者)へ。コードを書く人から、AI を指揮し、検証する人へ。

次のプロジェクトで、最初に設計書を書いてみよう。たった数行の箇条書きでいい。そこから始めると、AIへの指示が変わり、返ってくるコードが変わり、最終的に動くものの品質が変わる。

バイブは卒業。エンジニアリングが始まる。