AIトレンド

「6ヶ月でAIが90%のコードを書く」——Dario Amodeiの予言から1年、現実はどうなったか

2025年3月にAnthropicのCEOが宣言した「6ヶ月で90%」の予言。1年後の現実と、そもそも「90%」が何を測っているのかを検証する。

公開: 2026年3月28日約14分

「6ヶ月でAIが90%のコードを書く。12ヶ月で実質すべてが書かれる」——2025年3月10日、Anthropic CEOのDario Amodeiはアメリカの外交政策シンクタンクの場でこう言い切った。あれから1年が経った。

元の発言を正確に確認する

Amodeiが問題の発言をしたのは、2025年3月10日にアメリカの外交問題評議会(Council on Foreign Relations)が主催したイベントの場だ。原文はこうだ。

"we are not far from the world—I think we'll be there in three to six months—where AI is writing 90 percent of the code. And then in twelve months, we may be in a world where AI is writing essentially all of the code."

日本語にすれば「3〜6ヶ月以内にAIがコードの90%を書く世界が来る。12ヶ月後には実質すべてのコードをAIが書くようになるかもしれない」となる。

Anthropic CEO Says AI Could Write '90% Of Code' In '3 To 6 Months'—Warns 'Every Industry' Will Be AffectedAI could soon write 90% of software code in as few as three to six months, Anthropic CEO Dario Amodei said at a Council on Foreign Relations event on March 10. He added that within 12 months, nearly all coding tasks might be handled by AI. Human developers, however, will still be needed to provide design inputs and set operational parameters for these models. AI Code Revolution Anthropic, co‑founded by Amodei in 2021 after his stint at OpenAI, has attracted billions in funding from major tech cofinance.yahoo.com

"I think"という留保はある。しかし「three to six months」という具体的な期限を自ら設定したことが、この発言を検証可能なものにした。


6ヶ月後(2025年9月)——コンセンサスは「外れ」

予言の期限とされた2025年9月が過ぎた。検証した記者やリサーチャーたちの判断はほぼ一致していた。

Futurismは6ヶ月後の時点で「AIがコードの90%を書いている可能性はほぼゼロに近い」と結論づけた。

Exactly Six Months Ago, the CEO of Anthropic Said That in Six Months AI Would Be Writing 90 Percent of CodeExactly six months ago, Anthropic CEO Dario Amodei claimed that in six months, AI would be "writing 90 percent of code."futurism.com

同じ時期、まったく異なる視点からの研究結果も出ている。2025年7月にMETRが発表したランダム化比較試験では、経験豊富な開発者16人がAIツールを使った場合、タスク完了時間が19%遅くなった。興味深いのは、開発者自身は「20%速くなった」と思い込んでいた点だ。当サイトではこの研究を別記事で詳しく取り上げているが、少なくとも「AIで速くなる」という前提自体が揺らいでいることを示す結果だった。

Measuring the Impact of Early-2025 AI on Experienced Open-Source Developer Productivitymetr.org

6ヶ月後の現実は、Amodeiが描いた90%の世界とはほど遠かった。


1年後(2026年3月)——数字の現在地

では1年後の現在、数字はどうなっているか。

2024年10月のGoogle Q3決算発表でSundar Pichaiは「新規コードの25%以上がAI生成」と発表し、2025年4月のQ1決算発表では30%超に増加したと報告した。MicrosoftのSatya NadellaもLlamaConのイベントで「プロジェクトによっては20〜30%程度がAI生成かもしれない」と述べた(原文に "maybe" という留保あり)。

AI Is Taking Over Coding at Microsoft, Google, and MetaBig Tech is spending tens of billions of dollars on AI infrastructure.entrepreneur.com

Big Techの現実は20〜30%程度。Amodeiが宣言した90%には届いていない。

一方、Anthropic社内に限れば話が変わる。LessWrongとRedwood Researchの分析によれば、Anthropicの「一部のチーム」では90%以上のコードがAI生成になっている可能性があるが、全社平均は50%程度と推定されている。

Is 90% of code at Anthropic being written by AIs? — LessWrongIn March 2025, Dario Amodei (CEO of Anthropic) said that he expects AI to be writing 90% of the code in 3 to 6 months and that AI might be writing es…lesswrong.com

2026年2月には、Anthropic CPOのMike Kriegerが「Claude is now writing Claude」「多くのプロダクトで事実上100%のコードをClaudeが書いている」と発言したと報告されている(ソースは2次情報のみ)。Claude Code作者のBoris Chernyも、自身のコントリビューションの100%がClaude経由だと述べた。

Claude Code creator Boris Cherny says software engineers are 'more important than ever’ as AI transforms the profession – but Anthropic CEO Dario Amodei still thinks full automation is comingThere’s still plenty of room for software engineers in the age of AI, at least for nowitpro.com

Anthropicの社内数字は、Anthropic自身が発信している。AIリスク研究を最前線で行う企業が、同時に自社AIの能力を最大限にアピールする情報を出していることには留意が必要だ。


「90%」は何を測っているのか

ここが本質的な問いだ。「AIがコードの90%を書いている」という文章は、何を数えているかによって意味がまったく変わる。

以下の疑似コードで考えてほしい。

# ❌ 「行数」で測る場合
ai_lines = 9000   # AIが生成したコード行数
human_lines = 1000  # 人間が直接書いたコード行数
ai_percentage = 90%  # ← Amodeiが語る数字に近い

# この9000行の中身:
# ・使い捨てのテストスクリプト
# ・ボイラープレートコード(定型文)
# ・単純なデータ変換処理
# ・ループと条件分岐の組み合わせ
# ✅ 「設計上の判断」で測る場合
ai_decisions = 2000   # AIが担った判断(ループ、定型処理、補完)
human_decisions = 8000  # 人間が担った判断(設計、セキュリティ、エッジケース、レビュー)
ai_percentage_by_decisions = 20%  # ← 現実に近い可能性

# 人間が担った判断の内容:
# ・どのアーキテクチャを選ぶか
# ・このコードは安全か
# ・エッジケースを考慮しているか
# ・パフォーマンス上の問題はないか

「行数」で測れば90%になるかもしれない。だが大量に生成されたのは、使い捨てのテストスクリプトや定型処理といった「安価なコード」だ。設計の判断、セキュリティの検討、エッジケースへの対応——こうした「高価な判断」の多くは今も人間が担っている。

LessWrongの分析が指摘したように「90%のAI生成コード」は生産性が10倍になったことを意味しない。AIは安価な低価値のコードを大量生成しているだけかもしれない。

さらに重要な視点を加えたのは、ブロガーのJohn Gruberだ。2026年3月の分析記事で彼はこう指摘した——この問題の本質は「既存のコード量の何%をAIが書くか」ではなく、「AIによって総コード量が爆発的に増加している」という構造変化だ、と。

Claim Chowder: Anthropic CEO Dario Amodei on the Percentage of Code Being Generated by AI TodayLink to: https://www.businessinsider.com/anthropic-ceo-ai-90-percent-code-3-to-6-months-2025-3daringfireball.net

本を書いた人間の評価は、何ページ打ったかでは決まらない。設計・構成・判断を誰が担ったかで決まる。同じことがコードにも言える。


AnthropicにはAI能力を誇張したい動機がある

Amodeiの発言を批判的に読む上で、発言者の文脈を無視できない。

AnthropicはAIの「信頼できる語り手」を標榜する企業だ。AIリスクを最も真剣に研究しているAI企業の一つとして認知されており、Amodei自身もしばしばAIの危険性について公に語る。ところが同じAmodeiが「6ヶ月で90%」「12ヶ月で実質100%」という数字を出す。

この2つの顔の間には、矛盾が潜んでいる。

Anthropicは競合他社(OpenAI、Google DeepMind)との差別化において「Claudeの能力の高さ」をマーケティングの核に置いている。「AIがコードを書く」という話は、Claudeを使う動機に直接つながる。CEOが「AIはもうすぐエンジニアを置き換える」と語れば、企業はその前に備えようとClaudeへの投資を正当化する。

そのAnthropicが公表した社内数字は「一部チームで90%超」だ。しかしその「一部」がどのチームで、どの業務で、どの測定方法で90%なのかは明示されていない。

Cloudsmithの調査によれば、開発者の20%しかAI生成コードを「完全に信頼」しないと回答している。同じFuturismの報告では、AI生成コードを利用する開発者は従来の10倍のセキュリティ脆弱性を生み出すリスクがあるとも指摘されている。

Anthropic CEO Dario Amodei's prediction about AI in software development is nowhere nearly to becoming a realityEnterprises are using more AI-generated code, but Amodei's prediction of an industry-wide transformation hasn't yet materializeditpro.com

「AIがコードを書く」という事実と「AIが書いたコードが安全で信頼できる」という話は別だ。その区別がAmodeiの発言では一つに溶け合っている。


ゴールポストが動き続けている

もう一つ観察に値する現象がある。期限が来ても予言は更新されて繰り返された、という点だ。

2025年後半、Amodeiは発言を一部後退させ、「Anthropicの一部のチームでは70〜90%のコードがClaudeにより書かれている」という文脈に限定した形の発言をしたと伝えられている(LessWrong経由の2次情報)。

Is 90% of code at Anthropic being written by AIs? — LessWrongIn March 2025, Dario Amodei (CEO of Anthropic) said that he expects AI to be writing 90% of the code in 3 to 6 months and that AI might be writing es…lesswrong.com

そして2026年1月、世界経済フォーラム(Davos)の場で、Amodeiはほぼ同じ内容を再び語った。

"We might be six to 12 months away from when the model is doing most, maybe all of what software engineers do end-to-end"(モデルがソフトウェアエンジニアの業務の大半、あるいはすべてをエンドツーエンドでこなせるようになるまで、あと6〜12ヶ月かもしれない)

さらに「私はもうコードを書かない」と付け加えた。

CEOs at Davos were split on how bad the AI job wipeout will be | FortuneIn over a dozen meetings with top executives, two main themes stood out. fortune.com

2025年3月に「3〜6ヶ月」と言い、外れた。2026年1月に「6〜12ヶ月」と言い直した。期限が来れば次の期限が設定される。これを称して「ゴールポストが動いている」という。


では予言は「当たった」のか「外れた」のか

Loading diagram...

単純な答えは「外れた」だ。2025年9月時点で業界全体のコードの90%がAI生成になっていた事実はない。

しかし「完全に的外れだった」とも言えない。方向性は正しかった。AIコーディングは確実に進歩した。Big Techのコードの20〜30%が何らかの形でAI支援を受けているのは事実だ。Anthropic社内の一部チームでは確かに高い比率になっているようだ。

問題は「90%」という数字が印象を操作している点だ。正確には「一部のチームで、特定の測定方法で、90%という数字が出る状況はある」という話を、「6ヶ月で業界全体が90%になる」に転換した。


AI CEOの数字の読み方

この1年間の検証から引き出せる実用的な教訓は3つある。

一つ目、数字には定義と文脈が必要だ。「AIがコードを90%書いている」という一行を見たとき、何を「コード」と定義しているか、誰が使っているか、どのプロジェクトでの話か、を問い返す習慣をつけること。

二つ目、発言者の動機を考える。AI企業のCEOがAIの能力について語るとき、その発言は製品マーケティングの側面を持つ。「信頼できる語り手」であっても例外ではない。

三つ目、方向性は本物だ。誇張を割り引いても、AIコーディングが着実に進歩していることは疑いようがない。Big Techが20〜30%を実現し、一部では90%を達成しているのは事実だ。今後2〜3年でその比率が大きく上昇していく可能性は十分ある。

「AIがコードを書く」という未来は来る。ただしAmodeiの宣言したタイムラインと形で来るとは限らない。そのギャップを正確に理解している人と、CEOの数字をそのまま信じている人では、判断の質が変わってくる。

Amodeiは2026年1月のDavosでまた言った。「6〜12ヶ月後」と。次のチェックポイントは2026年の夏から秋だ。またここで検証しよう。